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雨宿りに走り込んだ軒下。自販機の陰で、俺はそいつと出会った。夕闇色の目が、気付けばじっと俺を見ていたのだ。不用意に目を合わせてしまった事を後悔しつつ、負けじとその瞳を見詰め返した。無言の決闘にも飽きて、俺から先に目を逸らした。負けを認めた訳ではない。無意味な睨み合いが莫迦々々しくなっただけだ。
言葉を交わす事は無かったが、そいつは少しの距離をとって、まるで俺になど何の関心も無いように、じっと座り続けている。俺も特に言葉を発する事は無く、ただ黙って立っていた。
数日前に、同じ色の猫が車に撥ねられて死んでいるのを見た事を思い出す。いつの間にか片付けられていた死体は、もしかしたらこいつの親だったのかも知れない。ぼんやりと、そんな事を考えた。
雨はまだやまない。暇だったので、俺はそいつの名前を考える事にした。黒いから「クロ」にしよう。暇潰しに選んだ思考は、三秒でけりが付いてしまった。まあいいか、いいだろ?クロで。声には出さずにそう言うと、クロはふいと横を向いた。可愛くない奴だ。気に入った。まあ、俺に気に入られたところで何の得にもならないのだが。
アロマに火を点ける。硬い音で鳴ったジッポに、そいつの耳がピクリと動いた。だが、まだ動かない。母の帰りを待っているのだろうか。ふと落ちてきた言葉に、思わず空を見上げた。もうどこにもいないのに。言ってやろうかとも思ったが、やめておいた。それこそ無意味だ。
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