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かつて隣に立っていた男は、いつも花の香りをまとっていた。それが安らぎを生み出すのだと信じて、麻薬に依存するようにそれを欲した。もはや意思ではなかったのだろう。呪いのように、祈りのように、ライナスの毛布のように、彼はそれを唇で拘束した。
その香りは、忘れ得ぬがゆえに忘れ去った女の残り香なのだと、あの夜に彼の口は語った。
そして今、自分はあの香りをまとっている。花の香りがする度に、救えなかった友人を思う。失ってしまった彼を思う。二度と戻らない時間を思い、自分の愚かさを悔やんだ。それは自分の罪を忘れぬ為であり、此処には居ない彼の幻を見る為だった。幻は苦痛でもあったが、同時に酷く甘い心地にもさせる。彼もこんな気持ちだったのかと、あらぬ妄想を掻き立てた。
彼が誰かから与えられた香りを、自分は彼から与えられた。
そうして伝染した狂気を、人は実に綺麗な名前で呼ぶ。まるでそれが美しい行為であるかのように錯覚してしまう。
忘れられない筈の記憶が、甘く溶けて夢になる。
目覚めたら消える、夢になる。
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