|
特に親しくもない級友からメモリーカードを貰った。それは僕も一時期はまっていたゲームのセーブデータだったので、埃を被っていたソフトを引っ張り出してハードを起動させてみた。
懐かしいメロディが心地好く記憶を呼び覚ます。仲間と夢中で駆け抜けた、あの草原が僕を迎える。
セーブデータは最後のダンジョンの少し手前で止まっていた。ここからイベントが始まるので、僕もここでセーブしたデータには上書きしないでおいたのだと思い出す。
クリア後にもセーブポイントがあるのだが、このメモリーカードには二周目に取り掛かった形跡がない。ボスは倒したのだろうか。レベルは充分だったが、主人公の名前が本人と同じだったのには少しだけ笑った。
記憶していたとおりに、仲間たちが喋りだした。決戦への覚悟や、ここに至るまでの苦難や喜びを語り、プレイヤーに微笑みかける。魔法使いの少女に淡い恋心を抱いていたのだと、不意に思い出して恥ずかしくなった。思い返せば、僕の初恋は彼女だったような気がする。
じわりと目の奥が熱くなった。この先に何が待っているのか、僕は知っている。今なら笑ってしまうような、どんでん返しの大団円。子供だましのハッピーエンド。それでもあの時、僕はそれに救われた。嬉しくて涙が出たのは、きっとあの時が初めてだ。この気持ちを、共に戦った仲間を、駆け抜けた草原を、絶対に忘れないと思った。
気づくと朝だった。徹ゲーなんて何年ぶりだろう。
重たい体を引きずって、心だけは晴れやかに、僕はいつもより少しだけ遅いバスに乗って学校へと向かった。
あいつの机には、白いヒメギクが供えられていた。昨日の夜、校舎の屋上から飛び降りたらしい。
僕は、あいつがあのエンディングを見たのかどうか、今でも気になっている。見たのに僕のようには救われなかったのか、それとも見なかったのか。これはただの勘だけど、見なかったのだと僕は思っている。仲間たちの笑顔も、涙も、強敵の悲しい決意も、気高い心も、子供だましの安っぽいハッピーエンドの全てを、あいつはきっと知らない。
最後のダンジョンの少し手前で、あいつの時間は永遠に止まってしまったんだ。
|