「如月、亀に乗った男について詳しく聞きたいんだが」
「…は?
(亀に乗った男?誰だ?浦島太郎か?いや、どうして龍麻が浦島太郎の話なんて聞きたがるんだ。はっ!もしかして玄武の事か?つまりこれは、僕の事を知りたいと、そう言ってるのか。そうなんだな龍麻!なんて迂遠な告白なんだ!まったく君は奥ゆかしいというか、分かりにくいというか、言語中枢がおかしいというか、我が道を行くその道が斜め上に突き抜けてるというか…まあ、そんな君だから僕もついていくと決めたんだけどね…早まったかな…)
 あ、ええと、何から話せばいいのか…」
「亀に乗った辺りから頼む」
「僕は亀に乗った事はないんだけど」
「亀が苛められてたんだろう」
「それだと浦島太郎じゃないか」
「それだ」
「え、どれ?」
「太郎について聞きたい」
「…ああ、そうなんだ。
 ええと、浦島太郎が今の形になったのは、室町時代に書かれた御伽草子だといわれている。記紀に見られる塩土老翁も、山幸彦を綿津見、つまり海神の宮に導くなどのエピソードが関連性をうかがわせるね。神武天皇を先導したのも同名の人物で、やはり海の道に詳しいとされている」
「その話、長くかかるか?」
「まあ、そこそこ」
「じゃあ寝てる。終わったら起こせ」
「分かった、要点をまとめよう。何が知りたいんだい?」
「玉手箱ってなんだ」
「御伽草子の浦島太郎に記された、竜宮城から浦島が持ち帰った玉匣。相手に呪詛の効果を与える」
「それで?」
「あ、ええと、御伽草子では、開けると鶴になったんだ」
「は?」
「万葉集の浦島子は、年老いて死んでしまった」
「百年ぐらい経ってたって聞いたぞ」
「うん、竜宮城では3年だったのに、いざ地上へ戻ると両親は他界しており、家も知人も、また一説では村全体が消え失せてしまっていたんだ」
「???」
「つまり、竜宮城での3年間は地上での300年に相当してたって事だね」
「ウラシマ効果か。竜宮城は光速に近い速度で移動してたのか?」
「(浦島太郎は知らないのにウラシマ効果は知ってるんだ)…それで絶望した浦島は、決して開けてはいけないと言い渡されていた玉手箱を開けてしまうんだけど」
「どうしてお土産にそんな物騒な物を」
「そうだね、これは禁忌を言い渡されて、それを破った末路、という典型的な禁見のタブーだ。寓話として含まれる教訓の類だとするのが一般的な説かな。伊邪那岐と伊邪那美しかり、オルフェウスしかり、鶴の恩返しなんかもこれだね」
「鶴を助けたら機織の為と称して自室を占拠されたあれか」
「ま、まあ、間違ってはいない、かな?」
「で、亀は?」
「亀は、えーと、昔から海洋の化身とされていて、その甲羅の模様を図案化した亀甲紋は主に…」
「光速で移動する竜宮城にどうやって入ったんだ」
「…亀も光速移動できたんじゃないかな?」
「やはりそうか!しかも移動している物体に接近するにはそれ以上の速度が必要になる」
「待ち合わせとかしてたり」
「だとすると制動エネルギーはどこから」
「あのね龍麻、非常に言いにくいんだけど」
「言ってみろ、俺は心が広い」
「君って面倒臭いね」
「…」
「あ!いや、違うんだ!君が面倒臭いんじゃなくって!ええと、あの、ほら、君との会話が面倒臭いっていうか」
「そうか、俺が面倒臭い訳じゃないんだな?」
「そ、そうそう…?」
「ならいいんだ」
「…心は狭いけど底が抜けてるんだね」