なんかこいつ、どこかで見たような気がする。
 そう思いながら近付くと、黄金の龍はさも不機嫌そうにちらりとこちらを見やり、すぐにふいと顔を逸らした。かわいくねーと声には出さずに呟くと、尻尾がぱたりと地を打った。一見して荘厳なのに、仕草は猫とさして変わらない。
 触ったら怒るだろうかと考えながら、そっと手を伸ばす。硬い鱗はひやりとしていて、存外に触り心地が好い。くすぐるように撫でてみたら、尻尾の先で後頭部をはたかれた。痛くない。龍に攻撃されて痛くないなんて、やはりこれは夢なのか。

 鱗に手をあてる。今度は怒られなかった。龍は我関せずとばかりに虚空を睨んでいる。
 ひたひたと、手の平で鱗を叩く。硬くて冷たいその感触は、あまり生き物という感じがしない。急に不安になった。
 この龍は生き物ではないのだろうか。きらきらと光を反射する鱗も、皓然と見据える目も、恐ろしく鋭い鉤爪も、雄雄しく屹立する角も、生物のそれではなく、まがい物なのでは。
 悲しくなって、冷たい鱗に額をくっつける。そうすると、龍が身じろぎ体をくねらせた。ああ拒絶されてしまったと、泣きたいような気持ちになる。彼は龍だから、自分とは根本的に違うものだから、同じ心では在り得ない。共になどゆけない。

 失意の涙が零れるより早く、純粋なる凶器である爪が喉に触れた。人間と龍では、端から勝負になんかならない。龍とはどこまでも強く、厳然たるその姿に捧げるは畏怖こそ相応しい。こんな気持ちになるのは、自分の方が間違っているのだ。
 爪が喉を斬り裂くのを待ちながら、この伝説の生き物は孤独なのだと理解して、それを憐れんだ。

 いつまで待ってもその瞬間は訪れず、知らず閉じていた目を開ける。眼前にあったのは、白い光を放つ瞳だった。その美しさにしばし見惚れ、気付いた。
 鉤爪は中空でためらうように泳いでいる。鋭利な先端は研ぎ澄まされた刃にも似て、今は自手にない得物を思い出す。成る程このように鋭い手では、この柔らかい体には触れられぬも道理。傷付けまいとしているのだ、この優しい龍は。
 胸が詰まった。自分も龍ならよかったのに。龍になりたい。彼と同じ鱗が欲しい。
 飢渇し、しかしいつかと願うほどには無知ではない賢しい自分が憎かった。