ラーメン屋を出ると同時に、6人が同時に身を震わせた。大袈裟に身をすくめて悲鳴を上げたのはアン子だ。それに同意する小蒔も、ラーメン屋の熱気に火照った頬を両手で押さえている。京一は慌てて上着の襟を掻き合わせ、醍醐は乾いた風に目を細め、緋勇は相変わらずの無表情だが両手はしっかりポケットの中だ。
 でも、と美里は空を見上げた。まだ夕焼けが見える。日が永くなったと、春の到来を主張する。つられて空を見上げながら、小蒔は小さくつぶやいた。

「もうすぐだね」

 誰かに伝える為の声ではなく、ただ溢れ出た言葉だった。通り抜けた風に掻き消されそうになった声は、しかし確かに伝わったようだ。「そうね」と、少しだけ寂しそうに美里がうなずく。
 卒業か、と醍醐が言う。「卒業できるの?」と京一に問うたのはアン子だ。こないだ補習したから、たぶんな、とうそぶく京一は、醍醐を風除けにして小突かれている。彼は、卒業したら異国に旅立つらしい。

 別れというものを、小蒔は今も信じていない。連絡先を知っている。会いたいという気持ちがある。それならば、別れなど存在しない。小蒔はそう信じている。
 それなのに、この心にまで入ってくる寒風はなんだ。まるで二度と会えないような、この寂しさはどこから来るのだ。

 終わってしまうのではないか。春のさざめきも、夏のゆらめきも、秋のいろめきも、冬のきらめきも、いつの間にか夢のように、ただ思い返すだけのものになってしまうのではないか。
 いつか、そんな事もあったねと、笑いながら話すのだろうか。ただ息をするだけで、こんなにも苦しい今を。

 風に吹かれて目が乾く。うるんだ目が、まるで泣いているように見えては癪だと、小蒔は何度もまたたく。冷たい空気を吸ったから、鼻の奥がつんとする。やがて終わる夕焼けが、この瞬間のように思えて胸が詰まる。

「やだな」

 涙よりも先に声が零れた。隣にいる美里の腕を掴み、もう一度「やだ」と声にする。今度は声と同時に涙まで零れた。驚きもせずそっと肩を抱いてくれた美里に、思わずすがりついた。そうしたら、もう駄目だった。
 どこにも行きたくない。ずっとここにいたい。卒業なんてしたくない。みんなと一緒にいられないなんて絶対にやだ。声にならない声でそう訴えると、手がからかうように髪を撫でてくれた。たぶんアン子だろうと思ったが、顔を上げる事もできない。

「忘れないで」

 やっとそう口にすると、後頭部を少し強めに叩かれた。それでも優しいこの手は京一だ。「ばか」と殊更に嘲るような口調で言われて、どうしようもなくなってしゃくりあげる。
 この悲しみを、怒りを、冷たさを、悩みを、喜びを、人を愛したという事を、自分たちは確かに友人だった事を、同じ気持ちでいたというこの事実を、どうか忘れないで。

 夕焼けが終わる。夜が来て、朝が来る。
 高校時代が、もうすぐ終わる。