彼女を語るにあたって、まず劉鳳がある。劉鳳に助けられ、劉鳳を慕い、劉鳳の為に命を捧げた。
水守に対しての牽制など、とても素直に感情を表しているようにも見えるが、どうもわたしには鬱屈した感情が感じられてならない。
ホールドによるアルターの保護行為を「アルター狩り」と言われて、「頭悪いなぁ」と発言するなど、一見して人を軽んずるような言動が多い。
幼い頃からネイティブ・アルターとして生き、困難な境遇に身をおいていた。アルターという特殊な能力を有するがゆえに、組織に所属する以外の生き方を選択できなかったとも発言している。作中で語られてはいないが、おそらくこの他にも不本意な選択を迫られ、納得できないがやむを得ない決定をしてきたのだろう。
人身売買と組織への所属を同等と考えている。何故なら、アルター能力者には、組織の保護を得る以外の道が残されていないから。組織への所属を拒否すれば、人並みに扱われる事すら難しくなる。そこに、果たして選択の余地はあるのか。彼女の答えは「否」だ。体を売って金銭を得るのも、ホーリーとして任務を遂行するのも、彼女にとっては同じ、自分の社会的地位を守る手段なのだ。
しかしこの言葉は、水守への牽制でもある。自分がアルター使いである事を強調し、アルター能力を持たない水守よりも劉鳳に近しい存在である事を主張したかったのだとも考えられる。
意思を持ってそれらを「割り切る」必要があったのは、押し付けられた不満や疑問にかかずらっていては生活に支障をきたすからだ。つまり、彼女は納得していない。ずっと自由ではなかった事も、そんな状況を強制する世界も、それに対して無力な自分も、彼女は憎んでいたのではないか。人道主義を臆面もなく掲げる水守は、さぞや歯がゆい存在だっただろう。
彼女の劉鳳への想いは、彼に救われた経験に起因する。絶望的な状況で、前触れもなく現れて自分を救った人間。しかも男前。傾倒するのも無理はない。だが恩を返す為に自分自身を捧げたのならば、それは恋ではなく義である。
倒れた劉鳳に向かい「貴方は何も成し遂げていない」と言い、その道を切り開くのが自分の意味だと言った。行動に対する恩返しなら、その命を救う事で達成される。彼女は劉鳳の命だけではなく、心も慮った。ならばそれは、義ではない。
劉鳳は、水守に「愛している」と告げられて、シェリスの名を出してそれを拒んだ。しかしこれは、シェリスへのなんらかの情を根拠とするものではない。彼女に命を助けられたという事実を踏まえ、それに対する義であると、わたしは感じた。
つまり、彼女の義は受け入れられたが、情はばっさり切って捨てられたのだ。
果たして彼女は報われたのだろうか。
彼女は献身こそ本望だったのだろう。しかしそれは、ひるがえって自身の否定とは考えられないだろうか。
価値あるものに出会い、それ以外の価値を失った。彼女が多くの場面で他者を軽んずる発言をするのは、自身をも含めて価値を見出せなかったからではないかと、わたしは考える。
つまり、こうは考えられないだろうか。
彼女は犠牲になったのではない。劉鳳を救う事で、かつて喪失した自分の価値をみずから形作ったのだ。
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