一度も聴いた事のない歌を、月森はすっかり憶えてしまった。
 花村がたまに小さい声で歌っているのに気付いたのは、随分と親しくなってからだった。誰に聞かせる訳でもなく、ただ心の赴くままに、爪先や指でリズムを刻み、小さくメロディを口ずさむ。そんな時、花村の耳にはヘッドホンが当てられていた。

 たとえば、通学路。まだ半分ほど夢の中にいる月森を、花村は自転車で追い抜く。追い抜いてから気が付いて、急ブレーキで停止して、振り返って「おはよう」と言う直前まで、この口は月森の知らない歌をささやいていた。
 あるいは、昼休み。ざわめく教室で弁当の包みを広げながら、誰にも聞こえないほど小さな声で、恥ずかしくなるような熱烈な愛の歌を口中でつぶやく。それは、彼なりの喜びの表現なのかも知れない。授業を終えて、空腹を満たせる時間が来た。そんな無邪気な喜びを表現するには、あまりにも相応しくない歌詞だったのはさておき。
 または、放課後。部活動に異性交遊に同性交友にクエストに勤しむ月森が、足早にその横を通り過ぎる時。通り過ぎた月森の背中を追って顔を上げる数秒前まで、花村は歌っていた。

 誰に聞かせる訳でもなく、ただ心の赴くままに、爪先や指でリズムを刻み、小さくメロディを口ずさむ。耳から入れた歌を、そのまま声にしているのだろう。ヘッドホンから聞こえているはずのその歌を、月森は知らない。
 知らないが、月森はすっかり憶えてしまった。ささやくように、つぶやくように、花村の声で歌われるその言葉と旋律を、いつのまにか知っていた。
 ざわめきにかき消されてしまうほど小さなその声が熱烈な愛の歌だと知っているのは、今のところ月森だけだ。



ええと、つまり。
そんな小さな声が聞こえるほど近くにいたんだね。
っていう話です。
花村くんが誰に向けて歌ってるのかは、考えてません。
たぶん花村くんは、誰に向ける訳でもなく、ただ歌ってるだけなんだよ。
で、番長はたまたま近くにいたからそれを聞いてるだけ。
意味もなく、望んだのでもなく、気が付いたら一番になってた。
そんな関係もいいよね。

2012.10.07













「…あの、モコイが…」
「気にするな」
「まるで抗議するかのように…」
「気にするな」
「全身運動で何かを主張して…」
「気のせいだ」
「怒ってるよモコイさん超怒ってる!」
「気のせいだ」
「だめ…モコイさんが見てる…!」
「気のせいだ」
「てゆーかモコイってお前のペルソナ…」
「気のせいだ」
「つまりお前が滾ってんのか!」
「うるせぇ」
「すみませんでした」

番長はモコイに守られているのだよ。
花村が守られてるでもいいけど。

2012.07.25













 「ななこ」と書いてあるプリンの横に「おにいちゃん」と書いてあるプリンを発見したのは、昨日の夕方だった。俺は、プリンを買った憶えがない。つまりこれは、菜々子が購入したプリンだ。遼太郎さんである可能性も皆無ではないが、俺は菜々子であると信じる。

 俺は想像した。
 菜々子が買い物をして、そのついでにプリンもカゴに入れたのだ。そうして重たい買い物バッグを抱えて家に帰ってきて、冷凍と冷蔵と常温とを選別して、それぞれを所定の位置にしまう。
 それはきっと、休日だったに違いない。俺はいつものごとくテレビの中で颯爽と身をひるがえし、ジオダインでもぶっぱなしていたのだろう。あるいは、段差でつまずいて転んだ花村を指差して笑っていたのかも知れない。里中にストレッチの重要性を説かれていたのかも知れないし、天城に猫の魅力を語っていたのかも知れない。
 とにかく、俺の与り知らぬところで、菜々子は自分のプリンに名前を書いたのだ。その菜々子の行動が、冷蔵庫を物色する俺に対する不信を表しているのだとしたら、はなはだ不本意である。空が落ちないのと同じように、俺は菜々子を脅かさない。

 話が逸れた。

 菜々子は、自分のプリンに名前を書いた。あのプリンは3つセットで売られている物なので、ひとつは既に菜々子が食べたのだろう。夕食には、まだ少し時間がある。しかし昼食はもう消化してしまった。そんな残酷な間隙に、とろける甘さがひそやかに侵入したとして、誰が菜々子を責められよう。誰も責められはしない。責める奴がいたら俺が絞める。
 そうして残った、ふたつのプリン。ひとつには、「ななこ」と記して所有権を主張した。

 俺は想像する。
 大好きなプリンを買ってきて、ひとつ食べたのにまだふたつも残っている。それは、連休の一日目にも匹敵する幸福だっただろう。そんな瞬間に、菜々子は俺を思い出して、しかもその幸福を俺に分け与えようと考えたのだ。
 「ななこ」と書いて、しばらく迷って、「おにいちゃん」と書き記す菜々子を、俺は想像する。

 だから俺は、強くなる。強くなれるんだ。



ななこがいなくても、番長はきっとリーダーだった。
でも、ななこがいなかったら、きっとあそこには行けなかったよね。
まあつまり、ななこ可愛いよね。

2012.07.12













「何この人形」
「モコイ」
「うわ動いた!?」
「気のせいだ」
「え、いや、でも動いたよね?」
「夜ここで一人で寝る俺の気持ちを察しろ。気のせいだ」
「あ…うん、気のせい、かも」
「気のせいだ」
「うん、気のせいだな」
「まったく、花村はそそっかしいな」
「ははは、わりーわりー、気のせいだったよ!」
「あ」
「うわやっぱ動いた!」
「…気のせいだ」
「なあ、これ、捨てたらやばいかな…?」
「捨てても戻ってくるんだ、しょうがないだろ」
「そっかーじゃあしょーがねーなー!」

花村くんには諦めないでいて欲しい。
難しいかも知れないけど、でも。

2012.06.05 芒種













 天城は、花村の本心など知らない。知らないが、時折ちらりと見え隠れする彼の傷が、ずっと気になっていた。

 小西酒店は、天城もよく知っていた。そこの姉弟も幼い頃からの顔見知りだ。その死んでしまった小西早紀が、花村の傷だ。はっきりと聞いた訳ではないが、そう確信していた。
 穏やかな早紀の顔を思い出そうとすると、天城はちくりと心臓の辺りに痛みを感じる。同じ商店街の一画で、同じように廃れてゆく故郷を見て、どうして彼女だけがあんな目に遭ったのか。理由を問うのは愚かな事なのか。

 早紀に関する噂も、耳にした記憶がある。それは無責任な好奇心と、廃れてゆく故郷への悲哀と、華やかな都会への嫉妬と、様々な感情の入り混じったもので、平たくいえば誹謗中傷のようなものだった。
 店先でのささやきも、道端でのつぶやきも、天城には聞こえていた。天城は否定も肯定もしなかった。ただ、大型スーパーが集客力を有しているという事実にだけ、頷いた。

 今ならば、言えたかも知れない。でも、もう遅い。彼女は死んでしまった。殺されたのだ。
 彼女を殺したのは、わたしたちだ。



ふと思い立って、天城さんに語らせてみた。
花村が自分のシャドウについて言いたがらないのは
(いや、普通に考えても言いたくないだろうけど)
それが「小西先輩について」でもあるから。
もちろん、小西先輩への声は、歪んで増幅されたもの。
でも、そのような事を言う人がいたのは、きっと事実だから。
声は誰のものでもないけど、だからこそ。
集団を構成するのは個人なのだから。

2012.06.02













 泣き顔というのはあまり綺麗なものではないと、泣きじゃくる友人をぼんやりと眺めながら、そう思った。
 彼は何事か一方的に話し始め、反応を求めるでもなくただ吐き出すように喋って、そして泣き出した。彼の言う事がほとんど理解できなかった俺は、ただ呆然と、流れ落ちる涙を見ていた。顔は綺麗じゃないけど、涙というものは綺麗なんだと、麻痺したままの脳裡で思う。
 大切な人なのだろうと、どこか遠く考える。あの人が、彼にとってはかけがえのない人なのだと。そんな風に誰かを想い続けられる彼が、とても羨ましかった。

 お前が気付かせてくれたんだと、濡れた瞳がまっすぐに俺を見た。それは違うと、俺は思う。気付いたのは彼自身だ。俺がいなくとも、きっとこの男は目を逸らさなかった。その事実にも、やがて気付くだろう。
 本当は、薄情なほどに強いくせに。ちゃんと一人でも顔を上げて、前を向いて歩き出せるのに。まるで寄りかかるような事を言うのは、何故だろう。

 しばらくしてやっと泣きやんだ友人が、気恥ずかしそうに微笑んだ。赤くなった目が、綺麗な水をたたえたまま柔らかく滲む。どうすればいいのか分からなかったが、さりとて彼を放置して帰るのもなんだか悪いような気がして、言葉もなく俺は立ちすくんでいた。
 落ちた涙はいつか気化して、大気に混じって空にのぼってゆくのだろうか。そんな益体もない事を考えた。死者が空にいるなどと、俺は信じていないが、もしかしたら彼は信じているのかも知れない。遠い未来に自分が死んで、待っていた彼女は少しだけすねていて、でも優しく迎えてくれる。そんな夢を見ているのかも知れない。

 泣きやんでも、彼はじっと佇んだままだった。さて、そろそろ帰ってもいいだろうかと胸中で呟きながら、しかし俺も動き出せずにいた。
 自分だったらこんな時、一人になりたいと思うだろうか。それとも、傍にいて欲しいと思うだろうか。想像してみようとして、だがこんな時というのが人生に於いて一度も存在し得なかったのだと気付き、諦めた。
 誰かを想って泣いた記憶など、どこを探しても見当たらない。



>そっとしておく
っていうのも、ありなんじゃないか。
でもちゃんと家まで送っていく。
花村は、心境を吐露した事で完全に番長を身内認定。
送ってくれた事で、気にされてる、好かれてると錯覚。
俺たち、もうすげぇ深い仲だよな!
>そっとしておこう
否定しなかった=肯定だ!
坂道を転げ落ちるがごとく相棒大好きになってゆく花村くん。

あと素朴な疑問なんだけど、胸を貸すのにどうして腰に手を回すの?
うん、言い尽くされてるのは分かってるよ。
でも言いたい。
番長、それは「胸を貸す」じゃないと思うよ。

個人的に萌えるのは頭を撫でるなんだけどね。
どうしてこうも主人公がことごとく欠陥人間なんだこのサイトは。

2012.05.27













「だいじょぶか?」
「駄目だ。ベホマしてくれ」
「ベホマ!」
「言っただけじゃねぇか」
「お前は俺に何を期待してるんだ」
「癒してくれ」
「よし、ハッスルダンス踊ってやる」
「あ、MP吸われた」
「しまった、ふしぎなおどりだったかこれ!」

男はみんなゲーム好き!
女はみんなクマが好き!

2012.05.20













「クマ、もうお嫁に行けないクマー」
「安心しろ俺が貰ってやる」
「それほんとクマ?」
「嬉しいのか?」
「センセイとケッコンすれば、クマはナナチャンのお兄ちゃんクマ!」
「!?」
「センセイ、ほんとに貰ってくれるクマ?」
「ふざけるな、お前にお兄ちゃんの座を渡すぐらいなら、俺が嫁に行く!」

P4知っててナナコンじゃない人の方が珍しいと思う。
ななこの影がいなかったのは、ななこがまだ幼かったから。
Q、じゃあ、主人公の影が出てこなかったのは?
A、主人公のキャラ付けを明確にしない方針だったから。
…終わっちゃったよ。
でも主人公の影は考えたいよね。
無意識に抑圧されて歪んだ本音とかね!
楽しいじゃないか!

2012.05.02













 しばらく無言でせせらぎを聞いていたが、やがて月森がたった今こちらに気付いたような唐突さで「なんか用か」と呟いた。視線は相変わらず手元と水面を行ったり来たりしている。問いには答えず「へたくそ」とだけ言ったら、「見られてると気が散る」と、やはり顔も向けずにまるで独り言みたいに返ってきた。
 じゃあ見ない。そう言って背を向けて、花村はぼんやりと空を見上げた。西の方が暗くなってきている。予報では、午後から雨だと言っていた。そろそろ降りだす頃だろうか。そういえば傘を持っていない。
 思考というにはあやふやな言葉が脳内を流れるのを眺めていると、背後で小さく舌打ちが聞こえた。

「見てねーぞ」
「いるだけで気が散る。どっか行け」
「バケツ空っぽじゃねーか」
「だからお前がいるから」
「俺が来るずっと前からやってただろ」
「そんなに長くはやってない」
「なあ、傘持ってる?」

 空を見上げながら言うと、月森も同じように空を見上げた。そうしてから、やっと雨が降りそうだと気付いたらしく、「持ってない」と言いながらも防水の上着を鞄から引っ張り出した。さすがは我らがリーダー、用意周到ぬかりない奴だと関心するより、花村は一つの傘に二人で入るという想像を無意識にしていた自分がいかに頓馬であったかを認識して、深く恥じ入った。
 月森はまだ水面を見詰めている。そのすぐ近くを、すうと大きな魚の影が通り過ぎた。

2012.05.01













「恥ずかしい…クマがあったら入りたい…」
「それは俺が許さん」
「なんでクマに入るのにお前の許可がいるんだよ」
「どうしてもクマに入りたかったら、俺を倒していけ」
「え、お前、クマのなんなの?」
「クマには、俺が入る」
「そっか、じゃあしょうがねぇな」
「ひらめいた」
「お、なになに?」
「一緒に入ればいいんだ」
「うん無理」

2012.04.20 穀雨













花村が戦闘中にヘッドホンをつける理由。
音楽を聴きたい・テンション上げたい=そのままだとテンションだだ下がり。
外部の音を遮断したい・集中したい≠外部に聞きたくない情報がある。

わたしは「聞きたくない情報がある」に一票。
他者と深く関わらずにいたい花村は、暴力とも縁遠い。
しかも相手は他人のシャドウ。むき出しの他者とも考えられる。
(集合的無意識だとすると自分でもあるけど、それはさておき)
それを、接近武器、または自分のペルソナで攻撃する。
花村が入れたくない情報は「攻撃している自分」だったらいいなぁ。
自分がやっているのはただの暴力である、という現実感を緩和する方法として、音楽を聴く。
聴くっていうよりも、強制的に脳に注入する。

たぶん産まれて初めて殴り合いの喧嘩して、やっとそれを自覚した。
主人公を殴るって発想がなかったのも、「殴られるのが怖い」の裏返しじゃないかな。
花村にとって「暴力が怖い」というのは、「傷付けたくない」よりも「傷付きたくない」が大きいのかも。
怖い事に立ち向かう→殴ってくれ!→分かった、よしお前も殴り返せ!→そ、そう来たか!

顔面にもろに入れちゃって「あ、ヤベ」って思いつつもちょっと気持ち好くなってればいいんだよ。
それでものすごく悔しそうな目で睨まれてゾクゾクしちゃったりね。
そして拳で相手を屈服させる快感に目覚めて…あれ?
どうしてこうなったんだっけ…?

主花か花主だったらどっちかって?
そうだなぁ、ななこが幸せならそれでいいよ。
集中力が切れてきたので、ここら辺で終わる。

2012.04.08













アダッチーについて
アダッチーは、「みんなバカばっか」って言ってるわりに「みんな」の代弁してる風な感じで喋ってる。
つまりアダッチーは寂しかったのかなぁ。一緒に面倒臭い事して楽しむ人がいなかったから、なのか?
でもアダッチーは、もうちょっと底が深いと良かったな。
反省したふりで自供しても、心の底ではみんな(自分含)を嘲笑してて欲しいな。
アダッチー、わたしの心の中で、永遠の中学二年生でいてください。

アダッチー以外のいろいろ
ななこ可愛いよななこ。ななこと将来の約束を交わすのが主題のゲームですよねこれ。
クマについて本気で考えようと思ったら眠くなってきた。
ヨースケいい奴。なのにどうして常に見下しアングルなんだ。
なおとも可愛い。怪しげなメカはわたしも大好物ですぞ。あともじもじすんな可愛いから。
りせちーは、可愛いだけじゃないところがいいよね。可愛くないところが可愛かった。
そしてお嬢と元気っ子の仲良しコンビはわたしを裏切らなかった。
かんじも、うん、可愛いよね。でも恥ずかしくて直視するのに勇気がいるね。
あと主人公は、イベントのアニメと戦闘後のきめ顔が印象ちょっと違うね。

しっかし罠の多いゲームだな。楽しい。

2012.04.03













 クマはクマ。ナンでもない、ただのクマ。
 ナンでもないからこそ、逆にナンにでもなれるクマ。

「略して逆ナンクマ」
「どうしても逆ナンって言いたいのね…」
「ダジャレじゃねーか」
「クマくんからダジャレを取ったら愛嬌しか残らないよ」
「ブリリアントも残る」
「おめーもまだ引っ張ってんのかそれ」
「特に意味はない」
「だろーと思ったぜ」
「バレてたか」

2012.03.20 春分