ふと見上げると、月が少しだけ傾いていた。右手には清酒を満たした杯。隣には、言葉少ない友人が座っている。春の宵はのろりと酔いの上がった頬を撫で、月は音もなく空を泳ぐ。縁側に腰掛けて、飲もうと誘ったのは蓬莱寺だった。 |
膝の上で眠ってしまった相棒の髪をもてあそびながら、緋勇は思った。今この首を絞めたら、彼はなんと言うだろう。驚くだろうか。それとも、いつものように仕方ねぇなと笑うだろうか。憎むだろうか、許すだろうか。それとも、思いも寄らないそれ以外の反応を寄越すだろうか。 |
切っ先を、白い胸に滑らせる。色づいた傷跡をなぞると、死の恐怖か恍惚か、やけに甘やかな吐息が零れた。喉を通って首筋に触れて、頬を撫でてまた喉に。ここを斬り裂けば、彼は絶命する。白刃に肌が映り込み、目を焼いた。赤が見たいと強く思う。黒い瞳が冷たく光り、ゆらりと泳いで伏せられた。 |
物凄い声が鼓膜を震わせ、緋勇は即座に身を起こした。膝をつき、音の発生源に鋭い眼差しを向けた瞬間、血の気が引いた。 |
「なあ、お前ら」 |