クモによく似ているのに、これも「化人」なのか。ナイフに付着した体液を払いながら、葉佩はそんな事を考えていた。
たしかにヒトと似ているものが多い。しかも、あからさまに二人以上の人間同士を縫い付けたようなものが多い。試作品、ないしは失敗作。人の形をしたものは、そのように見える。つまり、人為的に作られたものに見える。
だとしたら、ヘビやサソリはその前段階での実験だろうか。それにしたって、節足動物と脊椎動物では違いすぎないか。カエルの次が、もう人間なのか。そういえば、サルみたいなのもいた。
思考というにはあまりに漫然と、言葉が湧き上がるのをぼんやりと眺める。
背後で皆守が身じろいだのが分かった。かちりと小さな音がして、アロマに歯を立てたのだと想像する。苛立っているのだろうか。
勝手についてきたのに、その傲慢な態度はいかがなものか。殺気だった気配を背中で感じながら、文句があるならついてくるな、と言おうと向きなおって、しかし葉佩はそれが不可能であると口を開いてから認識した。
自分がこれほどまでに愚かな人間だったと、葉佩はこの男と出会うまで知らなかったのだ。愚かでは、《宝探し屋》など名乗れない。これは由々しき問題だ。
「皆守、疲れた?」
即座に肯定が返り、途方に暮れる。だったら帰れと言っても聞かないのは、もう知っている。それでもポケットを探り、彼に何かあげられるものはないかと考えている自分が、もうどうしようもなく愚かしい。ハバキ・ザ・フール・クーロン。おお、ちょっとかっこいい。そうか?
ポケットからまず出てきたのは、キャラメルだった。しかしこれはあとで自分で食べるつもりだったので、次に出てきたチョコレートを二つに割った。きれいに等分するのは苦手だ。割り箸も、だいたいうまく割れない。それ以前に箸もうまく使えない。駄目だな俺。まあいいか。
いびつなかけらを両手に持って、しばし動きを止めてみる。彼の目がどちらを見ているか確認しようと思ったが、やめておいた。葉佩自身が、大きい方をあげたいと思っているのだ。この愚かな心は、少しでも多くのものを彼に与えたいと願っているのだ。たとえ彼がそれを欲していなくても。
予想どおり、皆守は礼も言わずにそれを口に入れた。それでいいと、安堵するように思う。こんな些細な出来事は、早々に記憶から消してしまえばいい。
そうでなければ、優しい彼はきっと惑うだろう。殺すべき相手を前にして悲しむ人なんて、可哀相で見ていられない。でも《宝探し屋》は、可哀相でも手加減なんかできない。可哀相な彼を、この手は嬉々として殺そうとするだろう。そして、彼もそれを望んでいるのだろう。葉佩にはそんな確信があった。
彼が感じる痛みは、できるだけ少なくしてあげたい。たとえ彼自身が痛みを欲していたとしても。
キャラメルも取り出した。それでなくとも小さいこの物体を二分割するには、などと考えてから、どうして分割する必要があるのかと思いなおす。これは自分で食べると決めていたのだから、彼に差し出す事はない。
無駄な抵抗だと、自分でも思う。でも、せめてこれくらいは、自分というものを残しておきたい。《宝探し屋》なのだから、どうせ自我などすぐに消えて失くなるのに。あるいは、だからこそ。
皆守が苛立ったように爪をはじいたのを、わずかな音で察した。
うっとりと、葉佩は夢見るように思う。
それほどまでに、彼も自分を欲しているのだと。
だけど、死ぬのは彼の方だ。
つらいとは思うが、仕方ない。
ただひとつ、そこには真実だけがあるのだろう。
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