起きたら、二人の男が横で寝ていた。しかも、なんだかやけに複雑に絡み合って。 昨夜の事を思い出し、頭痛の原因に思い当たった。莫迦弟子が唐突に酒を持って来たから、縁側で月見酒と洒落こんだ。何故か莫迦弟子が一人で盛り上がった挙句、居間を占拠して寝入ってしまったのだった。たしか不思議な黒猫が途中から参加したような記憶があるのだが、あの猫はどこへ行ったのか。 腕拉ぎ十字固めによく似た体勢で寝入っている莫迦弟子は、相棒の覚醒にはまだ気づいていない。その相棒はまだ眠気の残った目でこちらを見上げ、どうして、と囁いた。それは、何故に自分は関節技を食らっているのか、という疑問だろうか。抜け出せないほど強く拘束されているようには見えなかったので、深くは考えずに「知らん」と答えて顔を洗いに行った。 目覚めたら、腕拉ぎ十字固めを食らっていた。 ごつい脹脛が顎のすぐ下にあって、息苦しいのはこの所為かと得心して視線を上げる。すると、こちらを見下ろす男と目が合った。昨夜の記憶を探して脳内をかき回し、師弟の酒盛りに途中参加したのだと思い出す。それにしては飲んだ記憶も見当たらないのだが、いつの間に寝入ってしまったのか。 ふと、まだ見下ろしている男の手に意識が引かれた。あの手の感触を知っている。あたたかい手の平が、からかうように、いとおしむように、心地好く頬を撫でた。この記憶は夢だろうか。現実だという確証もなかったが、どうして、と口が勝手に問う。男は冷厳にも感じられる瞳で「知らん」とだけ答え、そのまま踵を返して戸の外に消えた。 遠ざかる足音で覚醒したが、ぬくもりは腕の中にあったので目は開けなかった。 眠る前、相棒に酷く冷たくされたような気がして、あれは夢だろうかと考える。今ここに彼と同じ温度のぬくもりがあるのだから、きっと夢に違いない。そう断じた。冷たく感じられるのは、彼が高潔だからだ。自分を律し、冷静に保とうとしているからだ。こんなにも熱いのに、と胸中で呟き、腕の中のぬくもりを強く抱き締める。 下腹部の辺りで、低い呻き声がした。訝しんで目を開けると、何故か腕拉ぎ十字固めの体勢だった。成る程この体勢で抱き締めれば極まるな、などとぼんやり考えていると、凄絶な瞳とかち合った。お前の夢を見ていたんだと言い訳にもならない言葉を叫んでも、瞬く間に踵を取り返した彼が手を緩める事はないだろう。 急須に茶葉をぶち込んでいると、朝っぱらからあからさまに一戦交えた顔をしている二人が俺を見て、一人は威嚇するように目を細め、一人は目を逸らした。顔を見るまでもなく響き渡る物音で何をしていたのかはだいたい想像できるのだが、苦言も兼ねて問うてやる。 「お前ら、人の家で何してやがった」 「年寄りにゃ縁のねぇ事だよ」 「膝を極められたか」 「うるせぇ」 「緋勇、少しは手加減してやれ」 「お前には関係ない」 「可愛くねぇな」 「ひーちゃんが可愛く見える奇跡にそうそう出会えると思うな」 「ゆうべはあんなに可愛かったのに」 「!?」 「!?」 二人が同時に俺を見た。素知らぬふりで沸かした湯を急須にぶちまけていると、一人は勢い込んで俺に詰め寄り、飛び散った熱湯に大声を上げた。これは予想していた反応だ。もう一人は少しだけ目を見開き、暫し視線をさまよわせてから一瞬だけ静止して、ゆっくりと片手で顔を覆った。おい待て、なんだその反応は。心当たりがあるみたいに見えるからやめろ。俺が可愛がったのは猫であってお前じゃないぞ。 |